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コラム

クローン動物とクローニング技術の医学・医療への利用

明治大学バイオリソース研究国際インスティチュート 代表 長嶋 比呂志

 体細胞クローン動物作出技術の応用的意義として、(1)現存する動物個体、あるいは既に死亡した動物の複製個体の生産、(2)細胞からの無性生殖的な動物個体の生産、(3)同一遺伝子を持った動物集団の創出、(4)動物の遺伝子改変への応用、などが挙げられます。これらを総合的に組み合わせることで、クローン動物および動物クローニング技術は、医学研究や医療技術の開発に革新的な進歩をもたらすことができます。特に近年、大型動物であるブタを用いたトランスレーショナル・リサーチ(橋渡し研究)の必要性が認識されるようになったことを背景として、クローンブタの医学研究・医療への応用が活発に進められています。

クローニング技術によるsyngeneic移植系の創出

 齧歯類(マウス、ラットなど)実験動物には、近交系が存在します。遺伝的背景が均一化され、臓器・組織・細胞などの移植に伴う拒絶反応が起こらない近交系動物は、移植・再生医学の研究に不可欠です。一方、先端的な移植・再生医療の前臨床研究にブタが多用されることから、クローンブタの利用が注目されています。同一細胞を起源とする体細胞クローンブタ間で、輸血や臓器・組織・細胞の移植を行っても、拒絶反応は起こりません。このような、遺伝的背景の等しい個体間での移植系、すなわちsyngeneic移植系が、クローンブタの利用によって実現されます。さらに、蛍光タンパク遺伝子を発現するクローンブタを組み入れたsyngeneic移植系は、移植された組織や細胞の追跡を可能にする、非常に有力な研究ツールとなります。

病態モデル動物の作出

 医学・薬学研究において、病態モデル動物は重要な役割を果たしています。 すなわち、ヒトの疾患を動物で再現することによって、発症機構の解明や病態の詳細な解析、さらに治療法・治療薬の開発などを行うことが出来ます。これまでに、様々な疾患に対するモデル動物が、齧歯類実験動物で作られていますが、よりヒトへの外挿性が高い知見が得られるブタをベースとした病態モデルの開発が求められています。体細胞移植技術は、ブタの遺伝子改変を可能にする画期的な一面を持つので、今後は数多くの病態モデルブタが作出されて、研究開発に利用されるでしょう。我々も、変異型ヒト肝細胞核因子遺伝子を組み込んだ、遺伝子改変クローンブタの開発に成功し、糖尿病モデルブタとしての確立を進めているところです。

異種移植臓器ドナーブタの開発

 臓器移植におけるドナー(臓器提供者)不足の解決策の一つとして、ブタの臓器を用いる異種移植が提唱されていますが、異種移植実現への関門の一つは、拒絶反応です。拒絶反応への対策として、ドナーであるブタに遺伝子改変を施し、ヒトの免疫反応に対抗する戦略がとられています。異種移植に伴う超急性拒絶反応と、補体系の拒絶反応を抑制することを目的として、我々は、補体調節因子(decay-accelerating factor : DAF)遺伝子とN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(Gnt-III)遺伝子を組み込み、さらにα1,3−ガラクトシルトランスフェラーゼ(Gal-T)遺伝子をノックアウト(破壊)したブタを、体細胞クローニング技術を駆使して作出しました。異種移植のコンセプトは、必ずしも心臓や腎臓などの臓器全体の(丸ごとの)移植ではありません。例えば、糖尿病治療を目的とする、ブタの膵臓ランゲルハンス島の移植は、現在異種移植の応用として最も期待されていることの一つです。

バイオスキャフォルドとしてのクローンブタ

 遺伝子改変動物の乳汁中に生理活性タンパク質などの有用物質を生産させ、それを薬剤原料に利用する、いわゆる「動物工場」は、ヒツジ、ヤギ、ウシなどの乳用家畜で先行して開発されました。ブタでも、乳汁、血液、精液、体組織などの中に有用物質を生産させることは可能です。一方で、近年注目されているのは、ブタの体内環境をヒト臓器の生産に利用する試みです。iPS細胞やES細胞などの多能性幹細胞からの臓器再生が期待されていますが、非常に複雑な構造と機能を持った臓器の発生を、人工的な培養環境で再現するのは不可能に近いとの見方もあります。そこで、人工的培養に頼るのではなく、ブタの体内環境を利用する構想が提唱されました。動物の体内、特に胎仔の体内には、臓器を発生させる環境や機構が備わっているので、その体内環境を利用して、ヒトの多能性幹細胞や臓器の原器から、完成した臓器を作り出そうというのが、ブタを用いた「(ヒト臓器製造)動物工場」のコンセプトです。その実現のために、我々はヒト臓器や組織の発生に好適な体内環境を持った特殊な遺伝子改変ブタを、体細胞クローニング技術によって作出する研究を進めています。

 医学・医療への応用を目的とした体細胞クローンブタの研究は、動物のクローニング技術や遺伝子改変技術を進歩させる推進力となっています。医学・医療への応用や貢献という取り組みの中で培われた技術や知見は、将来様々な形で家畜の改良や生産の効率化にもフィードバックされるでしょう。さらには、地球規模の人類の課題、例えば環境問題、食糧供給の安定化、インフルエンザの世界的流行などに対する解決策も、動物クローニング技術の今後の発展の中に秘められていると言って過言ではありません。